プロローグ リフレイン

 

 悲鳴とため息。赤と黒。

 目を背けても瞼の裏まで追ってくる光景。

 耳を塞いでも脳に直接響いてくる音。

 全て、繰り返し見た夢。もう嫌だと頭を振って必死に叫んでも、誰も届きはしない。

「―――――」

 不意に、自分の名前を呼ばれて顔を上げる。逆光でよく見えない中、影が手を差し伸べた。

 何度この光景を見ただろう。何度、この手を見つめただろう。

「………ごめんなさい」

 口を突いて出る、謝罪の言葉。その意味は自分でもよくわからない。

 夢の中で何度も差し伸べられた手を、何度でもとる。

 この先に、続きがないことを理解しながらも。

 ぼろぼろと零れる涙。涙で歪んだ世界の中、握った手は冷たかった。

 それはまるで、死人の手のようで。冷たさが心臓を掴むように浸透する。

 何度も何度も、繰り返す夢。

 目覚めて悟るのは、終わりのない、悪夢の続き。

 

目次   第一話