第五話 魂の続き

 

 ソエルの手にしたファイルを、エージュはそっと閉じる。ソエルは怪訝そうな表情でエージュの行動を見、小声で尋ねる。

「どうするの?」

「……誰かが嘘をついてるなんて、まだ思いたくない」

「それは私だって同じだよ……」

 泣きそうな声で、ソエルは顔を伏せる。気持ちはエージュにも分かる。

 やっと、お互いが信頼を寄せ始めたところなのだから。

「ヴェロスにそれとなく確認しよう。……最悪、自分で見つけてるはずだ」

「そうだよ、ね」

 歯切れ悪く同意して、ソエルはファイルを抱き締めた。隠すかのように。

 ぽん、と頭に手を置いて、視線でエージュはソエルを促した。ソエルは小さく頷いて、エージュの後ろを歩きだす。

 ヴェロスが向かったのは、反対側だ。

 床を踏む微かな音が、異様に大きく響く気がする。

 丁度、突き当りに差し掛かろうとしたとき、エージュは声をかける。

「ヴェロス、何か見つけたか?」

 だが、返事はなかった。

 聞こえない距離ではない、とは思う。あるいは集中しているのかもしれない。

 背後のソエルを確認して、一つ頷く。ソエルがぎゅっと唇を引き結び頷き返した。

 さらに歩を進めて、歩み寄る。

 狭い書架の間、踏み出す一歩がひどく重く感じる。

 進めば進むだけ、迷路の奥を目指しているような感覚だ。

 ヴェロスの、姿が確認できる距離まで近づいた。

 ほっとすると同時に、不安が膨れ上がる。

 ファイルを開いて視線を落とすヴェロスは……あまりにも、反応がない。

「ヴェロス、どうしたんだよ」

 声が震えていないことを祈りながら、エージュは声をかけた。

 こと、とヴェロスがファイルを書架に戻す。

「……分からない」

「え?」

「俺は……何を、間違えたんだ?」

「ヴェロス、何のことを言ってるんだ?」

 再度声をかけて、ようやくヴェロスが視線を寄越す。

 その表情はどこか虚ろだった。

「お前らも、見つけたんだろ」

「何、を?」

 ソエルが問い返し、ヴェロスは小さく首を振る。

「そのファイル、そういう事だろ」

「これは……わた、私……」

「疑ってるんじゃない。でも、知りたいんだ。どういうことなのか」

 ソエルを庇うように口をはさみ、エージュがヴェロスに尋ねる。ヴェロスは視線を伏せ、ゆっくりと首を左右に振った。

「俺が、知りたい。俺は何を、どこで間違えたんだ? 俺は……」

 そして、ヴェロスは呻くように呟いた。

「……俺は、何で生きてるんだ?」

 ヴェロスの言葉の意味が、二人には分からなかった。

 生きている? それが、おかしいこと?

 重い沈黙が降り、ヴェロスは小さく肩をすくめて、弱い笑みを浮かべる。

「資料は、見つけたろ。それを持って帰って、解析すればいい」

「……でもっ、全然意味わかんないよ! ライレイはホムンクルスじゃないかもしれないのにっ……」

「その時は、別の方法を探すしかない」

「違うよ、そうじゃなっ……」

 ソエルは言いかけ、不意にはっと振り返る。

「下がってッ!!」

 叫ぶと同時に、ソエルは最大出力で防御結界を展開した。

 刹那、エージュは視界の中に、赤が翻ったような気がした。

 そして――衝撃が廃墟と化した研究所を襲った。

 

◇◇◇

 

 激痛に、声が出ない。

 仰向けに倒れたエージュの視界には、暗い天井ではなく、青空が映っていた。

「う……あ……」

 ソエルの細い声が耳朶を叩く。それがエージュを奮い起こした。節々が痛むのを必死にこらえて、エージュは体を起こす。

「ソエ、ル……!」

「エ……ジュ、ごめ……ん」

 意識が朦朧としながらも、起き上がろうとしていたソエル。

 そんなソエルを慌てて支え、エージュはすぐにソエルのポーチに手を伸ばす。

 常備している、治癒用の魔力球を取り出すためだ。

 ソエルが結界を張ってくれたおかげでエージュは軽傷で済んだ。

 当の本人は結界が破られた際に巻き起こった反動で、腕に酷い裂傷を負っていた。

 滴る血が、雑草に赤い斑点を落とす。

「悪いわね」

 ばち、と魔力球がエージュの手から弾け飛んだ。

「な……!」

 顔を上げ、思わず息をのんだ。

 深紅の鎌を手に、黒のワンピースに赤いジャケット。

 くすんだ金髪をした少女が静かに見下ろしていた。

――死神、だった。

 その姿と鎌で一目で分かる。魂の管理を司る……それが死神だ。

 ぞっとするほど美貌の少女だが、与えるのは冷たい恐怖だけだった。

 絶句するエージュに、少女の唇が動く。

「悪いけど、仕事が終わるまで黙ってそこに居て頂戴」

 冷たく言い放つと、視線を外し、少女が脇をかすめる。

 硬直するエージュの腕を、ソエルが震える手でつかんだ。

「……だ、め……とめ、てッ……」

「え……?」

 少女を追うように視線を向けると、少女はヴェロスへと一歩ずつ歩み寄っていた。

 その手に持つ鎌を、握り直しながら。

「ヴェロス! 逃げろッ!!」

 ヴェロスは茫然と座り込み、歩み寄る少女を見ているだけで動かない。

 駆け寄りたい衝動と、ソエルを放っておけない意識が拮抗してエージュは動けなかった。

 そして、死神の少女は、ヴェロスの前で足を止める。

「逃げる? 逃げるなんて許すわけないでしょう。大体こいつは……」

 ひゅっと、空気を割く音が聞こえる。

 ぴたりと首元で刃を止めて、少女は微動だにしなかったヴェロスを見下ろしながら言い放つ。

「……とうの昔に、死んでる魂なんだから」

 ひゅお、と風が舞った。

「死んで、る……?」

 呆然と繰り返したエージュに少女は答えず、ヴェロスは目を伏せた。

「残念だけど時間切れみたいだからね。悪いけど、連れて行くわよ」

「俺は……」

 ヴェロスの言葉を聞くことなく、死神の少女は鎌をわずかに引いた。

 刹那――ほとんど重なり合った連射音。

 その銃声に反応して鎌を回転させ、死神の少女は弾丸を弾き飛ばす。からからと地面に落ちた空薬莢を一瞥し、少女は軽く息を吐いた。

「やっと動けたところで、何ができるのかしら?」

「それ、でもっ……!」

「ライレイ……?」

 ヴェロスの向こう側に、青い顔で、肩で息をしながら銃を構えたライレイがエージュの視界に飛び込んだ。

 そしてその脇で不機嫌そうな顔でミウが腕を組んでいる。

「私を人攫いみたいな目で見ないでもらえる? 死神の役目は監査官であるなら知っているでしょう」

「関係、ありませんっ……私は、私が守りたい人を、私が生きている意味を失うわけには、いかないんですッ……」

 やれやれ、と言いたげに死神少女は首を振った。

「ミウ、貴方がついていて、どうして邪魔を許容するわけ?」

「はぁ? 何で私がロアの仕事を手伝う必要があるわけ? クオル様のいいつけにはそんな事含まれてないし」

「……全く」

 ミウの発言に呆れた様子の死神ロア。

 セミロングの鈍いブロンドを風にそよがせ、ロアはライレイへ視線を戻し、鎌を水平に構えた。

「邪魔をするというなら、そこの子と同じように、動けない程度には痛めつけさせてもらうわ」

 ロアの声に、迷いなど一切ない。

 それが任務であるのだから、当然といえば当然だ。

 魔力球の効果が遮断されたエージュには今のソエルを治癒する方法はない。

 そして、もしもロアと戦闘になったら勝ち目はないだろう。

 肌で感じる強さが圧倒的過ぎる。

 緊迫感が、再び満ちる。

「ライレイ、教えてくれ……」

 ぽつりと、ヴェロスが問いかけた。

 ライレイはロアへ向けた銃口をぴくりと微かに震わせたが、黙って続きを促す。

「俺は……死んだんじゃないのか?」

 その問いは、エージュの心を酷く動揺させる。

 違うと、言って欲しい。そう強く願う。

 ライレイは深く息を吐き出して、答えた。

「……ヴェロス、貴方は…十年前に、肉体的な死を、迎えています」

 それはあまりにも残酷な言葉だった。

 息をのんだエージュに、腕の中のソエルがかすれた声で「そういう事だったんだ」と呟く。

「なら、今の俺は……ゾンビってとこか」

 笑みを含んだ声で、ヴェロスが零す。

「いいえ、それは違うわ」

 ヴェロスの言葉を否定したのはライレイではなく……ロアだった。

 ロアを見上げ、ヴェロスは鋭く問いかける。

「どういう意味だよ」

「貴方は、ゾンビではない。ゾンビはね、死体に寄生した魂が動かすのよ。貴方の肉体は完全な人工物よ。そう……貴方は、魂を結び付けたホムンクルスなのよ」

「やめてっ!!」

 ライレイが悲鳴にも似た声で制止する。ロアは一瞥寄越し、肩をすくめた。

「魂が霧散するのを黙って見ているわけには行かないのよ。今、肉体という器が崩れたら、魂ごと壊れてしまうわ。それは貴方も望まないでしょう」

「私は、諦めてなんかない……手掛かりをやっと掴んだんです」

「手掛かり?」

「だから……命に代えても、私はヴェロスを滅びから救って見せますッ!」

 緋色の瞳に苛烈な意志を込めたライレイに、ヴェロスが困惑した表情を向けたが、何も言えなかった。

「なるほど。よぉーやく理解したわ。私がここに居る意味をね」

 不意にミウが呟き、組んでいた腕を解いた。

 その瞳に敵意の灯が宿った事に、エージュは気づく。

「悪いわね、こいつの相手は私がするから邪魔すんじゃないわよ」

 ミウはそう言い放って、迷いなくライレイへ拳を突き出した。

「な……!」

「っ!」

 絶句するエージュとは対照的に、ライレイは紙一重でミウの攻撃をかわすと銃口を向けて引き金を引いた。

 ミウは銃身を掴むとそのまま地面へと向ける。銃弾が土を穿ち、小石を跳ね上げる。

 ライレイはミウに掴まれた銃を捨て、すかさず距離をとると、もう片方の銃口をミウへ向けた。

「良い判断ね」

 ぽい、と銃を捨て、ミウは手をひらひらと払う。軽いやけどを負ったのだ。

「なんの、つもり……ですか」

「悟ったのよ。あんたをアルトに会わせちゃいけないって」

 ぎり、と奥歯を噛み締めたライレイに、ミウが不敵に笑った。

 唐突なアルトの名に、エージュは戸惑いを隠せない。

「正解? さ、どうする? 諦めて別の方法を探すか、そもそもそいつの魂を諦めるか、こうなったら二つに一つね」

「貴方たちを乗り越えます」

「そんな事、私が許すわけないでしょう」

 冷たい瞳でミウはライレイを睨む。

「あんたに譲れないものがあるように、私には守るべき人がある。守りたい願いがある。それに対抗するなら、答えは一つよ」

「ええ……そのつもりですッ!」

 叫んで、ライレイは迷うことなくミウへ向けた拳銃の引き金を引いた。

 

◇◇◇

 

 もはや、理解できない状況へと向かっていた。

 聞くべきことは山ほどあって、ただそれと同じだけ聞くことが怖い。

 ヴェロスは、自分はとうに死んでいたことを思い出していた。

 だが、それ以外が何も思い出せない。

 殺意を乗せた攻撃を応酬しあうミウとライレイを、今のヴェロスは茫然と見守るしかなかった。

 ロアはヴェロスのすぐそばに佇んだまま、同じように状況を見守っていた。

 ライレイが繰り出す射撃をミウは全て絶妙な距離感でもってかわし、隙を見て距離を詰めるとその拳ひとつでライレイへと突撃する。

 ライレイは何度もミウの拳を銃身でもって受け止め、その度に苦しげな表情を見せる。

 時転武器といっても、万能ではない。衝撃を受け続ければ崩れる。その瞬間がいつ訪れるともわからない。

「何も思うことはないわけ?」

 呆れたような声で、口を開いたのはロアだった。

 ヴェロスが茫然と目を向けると、冷たい視線にぶちあたる。

「あの子は、あんたを守るために今戦ってるのよ。男としてどうなの、それって」

「分からない……どうしてなんだ? どうして、ライレイは俺に……」

「逆に聞くけど。どうしてあんたは今まであの子がホムンクルスだって疑わずにいたのよ」

「それは……」

 即答できなかった。

 何故かと聞かれれば、それは。

――ライレイ自身が、自分をホムンクルスだと言ったからだ。

 それだけで、信じていた。疑う余地などないと思っていた。

 ヴェロスは、ホムンクルスという存在を名前でしか知らなかったから。

「嘘の中に、一割でも真実があれば人は嘘でも信じることができる。それは何故だと思う?」

「一部が本当であるから、か?」

「いいえ。本当は逆なのよ。真実だけだと、信じることが難しくなる。それは、本当の事は揺らぐ余地がないからよ。可能性がないこと……それが真実の本質。嘘は、可能性を残しているの。嘘が真実になる可能性も、真実が、嘘になる可能性もね」

 ロアの語る言葉が、思考をぐらつかせる。だが、同時に納得してしまう自分もいるのだ。

 ライレイは、ずっとホムンクルスについて調べていた。ヴェロスはそのことについて、自分の命をいかに保つかのためだと思って、それがどんなに残酷であったとしても黙って見守っていた。

 だが本当は、逆で。

 ホムンクルスだったのは、自分だったのだ。

「……知ってたら、俺はとっくにライレイの傍にいることを諦めたかもしれない」

 ぽつりと、ヴェロスはそう零す。

「傍にいて、悲しませたくない。でもって……消えるなんて情けないとこ、見せたくねーからな」

「それも一つの、正しい選択よ。でも、あの子はそれを選ばなかった。あんたを守る道を選んだ。そのためについた小さな嘘と大きな罰。その強さに私達死神は応えるため、あんたを狩りに来た」

「え……?」

 ふ、とロアは優しげな笑みを浮かべ、告げる。

「そろそろ時間ね」

 発砲音が、鳴りやんだ。はっと視線を戻すと、ライレイがうつぶせに地面に倒れこんでいた。

「ライレイッ!!」

「だ、……じょう、ぶ……ま、だ……」

「終わりだって言ってんでしょ」

 だん、とライレイの手に未だ握られた銃を踏みつけ、ミウが冷たく言い放つ。

 ここで蹴り飛ばしたところで、再度手元に呼び戻せる時転武器だ。こうして物理的に踏みつけて接触したまま動きを封じる方が確実であることを理解している。

「悪いわね。私、あんたみたいなの、嫌いじゃないわ。むしろ好感が持てる。だってそれは私の生き方と同じようなものだから。……だけどね」

 がり、と銃をさらに地面へこすりつけ、ミウは目を細める。

 凍り付いた確固たる意志の宿る視線を、突きつける。

「私の守りたいものに手を出すことだけは許さない。議会が許可して、王が認めて、神様が命令してもね」

「ライレイが、何を……」

 問いかけたエージュを見やって、ミウはさらりと言い切った。

「アルトに聞きたいんでしょう。どうやったら『魂の保存が可能な器を作れるのか』を」

「ホムンクルスは……魂がないんじゃ……」

「だから、言ったじゃない。特別なホムンクルスだからこそ禁術指定なんじゃないか、って。逆に教えてほしいわ」

 視線を落とし、ミウはライレイへ冷たく問いかけた。

「貴方、世界に対してどんな反逆をしたのよ」

「私は……私はただ……取り戻したかった、だけです」

 消えそうな声で、ライレイが返した。ミウは眉をひそめて、続きを促す。

「こんなはずじゃなかった……私、は……私は……っ」

 ざわ、と風が濁った空気を巻き上げる。

「私は……ここまできて、引き返すなんてことできない」

「あ……」

「ミウッ!」

 ロアの声が響くと同時に、ミウは愕然とした表情を浮かべた。

 

◇◇◇

 

「刺激しすぎなのよ、あんたは」

 呆れた声が、すぐ隣で聞こえ、エージュは慌てて顔を上げる。

 すぐ隣でミウを支えて立つロアがいた。

 ミウはスカートの裾をはたき、ぷいっとそっぽを向く。

「私には、私がしなきゃいけないことがあるんだから仕方ないでしょ」

「やり方の問題ね。とりあえず……」

 ぽい、とロアが魔力球をエージュに向かって放り投げる。

 エージュは反射的にそれを掴んだ。手のひらに収まるくらいの、琥珀色の魔力球だった。

 意味が汲み取れず戸惑うエージュに、ロアは目を向けず言う。

「結界解除用。それを使えば、治癒用も使えるようになるわ。さっさと直して、帰りなさい。ここからは……」

 ちゃ、と鎌を構えロアは目を細める。

 その視線の先には、ゆらりと佇むライレイの周囲を、どろどろに溶けた何かが蠢いている光景があった。

「本当に、どれだけ不器用なのよ。あんたの彼女は」

 同時に転移させたのか、ミウの向こうに立っていたヴェロスにロアは言う。

「俺は、そんなんじゃ……」

「馬鹿ね」

 ざっくりと切り捨て、ロアは悪戯っぽい笑みをヴェロスに向けた。

「女が命を懸けて守りたい男なんて、それ以外にいるわけないじゃない」

 茫然と、ヴェロスはライレイを見やる。

 俯いたライレイの表情は、想像しなくても分かるほど、苦しみに包まれている。それでも動けないヴェロス。

 まだ、戸惑いが先行しているのだろう。

 それを横目に結界解除を確認したエージュは、続いてソエルの治療へ移る。

「仕方ないわね。少し時間をあげるわ。エージュ、特例発動」

「え?!」

 しれっととんでもないことを言い出した。

 治癒を施していたエージュは慌てて顔を上げ、ロアを見やる。

「そんな権限、あるわけ……」

「最終手段として許可は得ているわ」

 そんな事を唐突に言われても、エージュは戸惑いしか覚えない。

 死神と監査官は管理者が違う。許可を得たとは言うが、果たしてそれはアルトの決断なのだろうか。

 正直、エージュはアルトの命令だからこそ、時を操作する能力を隠していたのだから。

 だが、ここで状況を打破するには、ヴェロスの記憶の矛盾を解消する以外に方法は、恐らくない。ライレイをここまで追い詰めた本当の原因を、見つけなくてはならない。

「エージュ、行ってきて」

「ソエル?」

 まだ半分ほどしか回復していないソエルだが、エージュの手を退けて、ふらつきながら立ち上がった。

「エージュはエージュが出来ることを、して。私はね、エージュが誰かを救える力を持ってること、誇りに思うの。……だからね」

 きゅんっ、と甲高い音が鳴り響き、防御結界が展開される。

「私もパートナーとして誇りに思ってくれるようにしようって頑張れるんだよ」

「ソエル……」

 額に脂汗を浮かべながら、ソエルは結界を張り巡らせる。喪失した血の分、青白いソエルだが、笑みはいつもと同じ。

 そして、その想いと覚悟が、エージュには何よりも……力になる。

 エージュは悲しむ人が一人でも少なくなるように、監査官としての生き方を選んだのだから。

「ソエル。……お前は、最高の相方だよ」

 すっと立ち上がり、エージュはヴェロスを見やった。

「行くぞ、ヴェロス。全てを、取り戻すために」

 そして、ただ一人を守るために。

 

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