風切羽の契約

 

第一話 飛べない鳥

 

 白は染まるためにあるのか、それとも染まらないための色なのか。

 そんな事を考えさせるには十分なほどの、時間と距離感がそこにはある。

 興味津々なのだろう。

 窓枠に張り付いて動かない姿に苦笑しながら、ブレンはその背中に声をかける。

「何か、面白いものが見えますか? クオル様」

「はい! 凄いです。風車って本当に風で回るんですね」

 振り返った拍子に広がった金髪は、窓から差し込む日光に照らされて、きらきらと輝きを増す。

 少女とも間違われる顔立ちに満面の笑顔を載せて応えたクオルに、ブレンは曖昧に笑う。

(そういうのは、さすがクオル様……だよな)

 クオルに一般常識や一般教養は、相変わらず期待できない。

 それもクオル自身が悪いわけではないのが、余計に悲しいとも思う。

 真っ白な法衣に身を包み、真っ白な帽子。挿し色のオレンジのリボンが加えられた帽子は室内だというのに、まだ被っている。

 恐らくは、景色に夢中で荷解きという頭はないのだろうが。

 今日は早めに休息をして、明日の朝早いうちにこの街を発つ。

 それが今時点の計画だ。何もなければ、それでいい。

 小さくため息を吐いて、広げていた地図を畳む。

 不意に顔を上げると、目が合った。

 空色の瞳とぶつかり、ブレンは目を見開いて息を呑む。

 いつの間にか目の前に立っていたクオルが、身を屈めて覗き込んでいた。

「大丈夫、ですか?」

「え……」

「眉間に皺、寄ってます……よ?」

 自身の眉間を指さしながら、クオルは言う。

 ブレンは顎をかくかくと上下に動かしながら、慌てて身を引く。

「いや、あ、大丈夫です」

「本当ですか?」

 心配そうに確認をとるクオルに、ブレンは申し訳なさを覚える。

 不甲斐なさを呪いたくなりながら、それでも自身の役割だけは見失わずブレンは淡く微笑んで見せた。

「嘘は言いません。……あ、でも今日は早く休んでくださいね。明日早いので」

「分かりました」

 ふわりと微笑んで、クオルは肩に載せている青の竜――ライヴの首辺りを撫でる。

 その笑みは、冬の太陽が雪を解かす様に淡い熱を振り撒く。

 見惚れるほどの、儚く綺麗な微笑。

 自覚なしにそれを撒き散らすクオルが、心底恨めしい。

 笑みがひきつっていないことを祈りつつ、ブレンは笑って誤魔化すしかなかった。

 

◇◇◇

 

 大陸のほとんどを統治するレバノン帝国の辺境。

 気付けば、そんな場所にまで来てしまっていた。

 かつては帝国の中心、帝都アクティ・ギリーにいたのだが、今や大陸の最北端に近い場所にいる。

 貿易を中心に栄えた帝都は、海を越えた大陸との交流も盛んで、文化や物資の交換も著しい。

 大きな戦争も長らくない、平和といって差し支えない大陸だった。

 そんな平和そのものの帝国。その王城で、ひた隠しにされてきた存在がクオルだった。

 幽閉されて、ただ孤独を与えられるだけの時間。

 人でなくなったクオルにとって、それがどういう意味を持っていたのかは、未だにブレンでは分からない。

 聞く、勇気がない。

 今でさえ、無理しているのではないかと、どこかで勘繰りながら共にいるのだから。

 鳥かごから解放したはずのクオルは、それでも風切羽を失った鳥のように、自由に羽ばたく力はもっていなかった。それだからこそ、ブレンは共にいる。

 それがあるからこそ、共にいる権利がまだある。

 世間から隔離され過ぎたクオルには、常識も一般教養も皆無に近い。

 善悪の判断や商業取引の基本は分かるが、その他は怪しい。

 放っておけないのは、そのせいだ。

 そういう風に、ブレンは自分に言い聞かせている。でなければ、傍にいる権利を失いかねないのだから。

 オイルランプの滲むような光の中で、ぼんやりと地図を眺めながら、ブレンは行く先について思案していた。

 追手に出会わなくなって久しいものの、それでも安全という確証はない。

 一生続く可能性だってある。

 だが、一生とは……どれだけのスパンを指すのだろうか。

 ブレンにとっての一生は、よくても百年弱。だがクオルにとっては違うはずだ。

 人間という枠からはみ出してしまった、クオルの一生がどれだけの期間になるのか。それを問うてどんな顔をされるのかが怖くて、未だに聞けないでいる。

 ちらりと視線を向ければ、何の心配もなさそうに、静かな寝息を立てて居るクオルが見える。

 ブレンも今年で、十九になる。外見だけ見れば、クオルはそれより幼い。

 実際は、クオルの年齢はブレンよりも少なくとも三十は上だ。

 だが、その年齢差分の時間を、クオルは幽閉されて過ごした。そこに付随した苦悩や寂寞はブレンでは図りようがない。

 そして、何より今は……どうなのだろうか。

「……はぁ」

 一つため息を吐いて、ブレンは天井を見上げた。

 ランプの光が儚く揺れるのに合わせて、闇が振れる。

(いつまで、一緒に居られるんだろう)

 時間の経過と共に、距離は遠ざかるばかりで。

 いずれ老いて、クオルを置いていってしまう。また、一人にさせてしまう。

 だがどうにかできる手段など、ブレンにはない。出来るとすれば、その傷が深くならないようにするだけだ。

 早くに道を分かつか……あるいは、同じような境遇の、別の誰かに託すか。

(どっちも嫌だ、なんてのは……俺の我儘なんだろうな)

 第三の選択など、存在しないのに。

 瞼を閉じて、再び深いため息に沈む。

 その手を引いて、歩き続けるなど夢でしかなくて。

 籠の外は、不自由だらけだ。

「……寝るか」

 余計な事ばかり考えて、本当に必要なことにまで頭が回らない。

 行く先など、本当は自分が考えるべきではないのかもしれないが。勝手に自己存在の肯定材料にしている。

 軽く頭を振って、オイルランプを消そうと手を伸ばして、ふと気づく。

 窓の外から見える景色の中を、小走りで抜ける小さな姿。

(子供?)

 間もなく日が変わる時間帯に、子供が数名。それも人目を忍ぶ様にして物陰を渡り歩く様子に、ブレンは眉をひそめた。

 子供たちが向かう先には、村はずれの開けた丘がある。

 深夜は魔物が活発に動く。村と言えど、基本的には深夜に出歩くのは危険だ。

 ましてや、村はずれなど。

 ちらりとクオルの眠る枕もとで、丸くなって眠っているライヴに視線を向ける。

 何かあれば、ライヴがいる。下手をすれば、ライヴの方が頼りになるくらいだ。

 ふっとオイルランプの灯に息を吹きかけて消すと、室内が見る間に暗くなる。

 網膜の残像に目を細めつつ、ブレンは自身の武器である剣を掴んで、物音を殺して扉に手をかけた。

 割り切れない自分に、辟易しながら。

 

◇◇◇

 

 見上げた空には、星が輝いている。

 肌寒い宵の空気を吸い込んで、ブレンは子供たちの消えた方向へと歩を向けていた。

 かつて見上げた故郷の空と、同じ。

 友人に囲まれて、無意味に夢を語り合った日々は遥か彼方だ。

 戻りたいわけでもない上に、虚しい笑みを導いてしまうくらいには。

 静まり返った村で、ぎしぎしと回転する風車。

 微かな水音が宵の静けさを際立たせる。

 特段、珍しくもないこの風景でも、クオルにとっては煌めく世界なのだろう。

 それは羨ましくもあり、胸を詰まらせるには十分なほど、哀れだった。その手を引き続けられるならいい。

 だが、叶わない願いだ。

 この頃は、一人になるとそればかり考えてしまう。

 その根底に存在する感情が、ブレンにとっては認めがたいものだった。

 好きだなんてことは、届かない故に虚しいだけで。

 ため息を吐いて自分を誤魔化しつつ、細い林道を抜けて、丘を目指す。

 小さな体を寄せ合って、何かを囁き合う三人の子供の姿が見えた。

 無事にほっとすると同時に、ブレンは苦笑する。

(誰にも頼まれてないのにな)

 夜空を指さしては額を突き合わせる子供たち。天体観測をしているようだった。

「……親には内緒か?」

 声をかけると、びくっと体をすくませて子供たちが一斉に振り返った。

 まだ幼い、親の監視からやっと抜け出したくらいの年頃の少年二人と少女が一人。

 怒られることに身構えた様子で、肩を寄せ合う三人に、ブレンは思わず苦笑した。

「大丈夫。叱りに来たわけじゃない。……夜は危ないってのは、知ってるだろ?」

「魔物くらい、俺が追い払えるよ! 俺、父ちゃんから、けいこつけてもらってるんだ」

 得意げに腕を組んで見せた少年。実に微笑ましいが、丸腰なのは指摘しないほうが良いだろう。

 折角の自尊心が傷ついてしまう。

「天体観測か?」

 話題を変えたブレンに、少女がぱっと表情を輝かせて頷いた。

「今日はね、流れ星がたくさん見える日なんだって!」

 声を弾ませた少女を、身を隠していた気弱そうな少年が「それ、ひみつなのに」と咎める。

 少女は慌てて両手で口を押さえた。

「流星群か……」

 ブレンも空を見上げてみる。月と小さな光を煌めかせる夜空。

 灯りも少なく、障害物の少ない開けたこの場所なら、確かに良く見えるのだろう。

 見上げて早々に、すっと夜空を駆け抜けた光。

「みえた!」

「バカ、ねがいごとする前に消えちゃったじゃんか!」

「そんなの無理だよ……」

 それぞれの思いのたけを夜空に吐き出す、子供たち。

 微笑ましいと同時に、ブレンの胸に去来するのは部屋に置いてきたクオルだった。

 流星群は珍しい。連れてくればよかった。

 だが、今更子供たちを放って戻ることは出来ない。

 頼まれてもいない使命感に躊躇しながら、ブレンははしゃぐ子供たちを見つめていた。

 あんな頃があったな、とどこかで思いながら。

「……それでもお前は護衛か」

 冷たく突き刺さるような声音に慌てて振り返る。

 ライヴを肩に載せ、いつもの白い法衣に身を包んだ姿。その瞳は、宵に染まったような深い色に染まっている。

「イシス様……」

「放置など護衛失格だ」

「……すみません」

 返す言葉もない。

 クオルの中に棲む、もう一つの存在――イシス。

 肉体を共通として、瞳の色だけが変化する。気配は明確に異なり、それだけでブレンには判別できる。

 息を一つ吐き出してイシスはブレンの脇に並んだ。

「流星群か。……疲労していなければ、叩き起こしたのだがな」

「……休ませてあげてください。無理をさせているのは、承知していますから」

 ちらりとイシスが視線を寄越す。

 その眼光はどこか鋭く、冷たい。突き放すような視線だ。

 ブレンは小さく息を呑んで、その視線からそれとなく逃れる。

「お前は、甘い」

 ぴしゃりと言い切られ、ブレンは口を噤んだ。どんな言葉も、イシスには跳ね返されかねないのだから。

 それでも、イシスは黙って傍らに佇み、空を見上げていた。

 すっかりブレンの存在など忘れ、ましてやイシスの登場に気付いてもいない子供たち。

彼らのはしゃぐ声を聴きながら、二人並んで夜空を裂く光に視線を向ける。

「……寒くないですか?」

「寒いとしたら、どうする気だ?」

 逆に問い返され、ブレンは思わずイシスを見やった。

 宵の風に、月の微光に照らされた金髪が儚く揺れる横顔。

 それに対する答えなど用意していなかったブレンは、無意味に頬を掻きながらぽつりと返す。

「戻ります」

「阿保か、お前は」

 鼻で笑われたブレンは首を捻る。他にどんな答えをしろというのだろう。

 根底で閉じ込めた感情を、晒すわけにもいかないのに。

 許されるならせめて、その手を温めるくらいはしたい。

 その一方で、触れたら決壊しそうなこの感情を、クオルにだけは知られたくはなかった。

 

◇◇◇

 

 頼まれてもいない子供たちの護衛。

星の瞬く丘の上で、腰を下ろして同じく天体観測を続けていた。

流れる星を眺めつつ、ブレンは意を決して、問いかける。

「……聞いてもいいですか、イシス様」

「何だ」

 つっけんどんな物言い。視線さえ向けない横顔に若干気圧されつつブレンは問いかける。

「クオル様にとって、私は……必要なんでしょうか」

「は?」

 眉を顰め、イシスが視線を寄越す。

 ブレンは慌てて顔の前で手を振った。

「いや、あの、もちろん、護衛としてですけど」

 無言で、唇は真一文字に結んだまま、イシスは疑いの眼差しを突きつけて来る。

 唐突にそんな事を問いだした真意を窺うように。

 そんな疑惑の視線から逃れる様に視線をそらすと、イシスは大きくため息を吐いた。

「そんなもの、私は知らん」

「で、ですよね……」

 曖昧な相槌を打ちつつ、余計な事を問うた自分を、ブレンは心の中で罵る。

 勇気を振り絞る相手が違うのは百も承知だった。だが、本人に聞けるかといえば、それはノーだっただけで。

「……前にも言ったが、引き際は自分で決めろ」

「でも……それじゃクオル様が」

「お前ひとりの事でどうにかなるなら、これから先、生きていけるか。だったらお前の手で殺してやるくらいの気概を持て」

「そ、そんな事出来るわけないじゃないですか!」

 慌てて反論したブレンを一瞥して、イシスは空を仰ぐ。

 その横顔は、儚くも、強い。

「なら、引き際は見誤るなよ。お前の人生は、お前のためにある。間違っても、誰かの為じゃない」

「イシス様……」

「返事は」

「……はい」

 これでこの話は終わりだ、とイシスは切って立ち上がる。

 未だ楽しげな子供たちにひとつため息を吐いて、呼びかけた。

「そろそろ帰るぞ」

「えー!」

「えー、じゃない。星を見に来て、星になるなんて馬鹿げた終わり、くだらない」

 上手い言い方をする。ブレンが感心する前で、子供たちは頭の上に疑問符を躍らせていた。

 残念だが、伝わっていないようだ。

 苦笑しつつ、ブレンも立ち上がって子供たちを促した。

「探しに来る前に帰らないと、次は警備が万全になるぞ?」

「あー、かーちゃんがまたうるせーのはヤだな」

「じゃあ、帰ろう」

 こくっと頷いた三人にほっとしつつ、ブレンは彼らを連れて、もと来た道を歩き出す。

 ふと、動かないイシスに気付いたブレンは首を傾げつつ、振り返って呼びかける。

「イシス様?」

「……お前は、本当に馬鹿だな」

 背を向けたまま紡がれた、イシスの暴言。意味が分からず戸惑うブレンに、イシスはくるりと向き直って歩み寄る。

 頭一つ分違うイシスがブレンの瞳を覗き込んだ。

 思わずその双眸に射竦められていると、イシスはきっぱりと告げる。

「やっぱり、お前はとっととどこかへ行け」

 

◇◇◇

 

「流星群……見たかったです」

 残念そうにクオルがそう零したのは、村を発ってすぐの事だった。

 表情が引き攣ったのは言うまでもなく、振り返る事すらできなくなる。

 怒っているわけでもなく、純粋に残念がっているのが分かるだけに。

「お疲れでしたから、気を使ってくださったんですよ、クオル様」

「それは、分かってますけど……」

 背後ではライヴがフォローしてくれている。竜にフォローされるというのもどうかと思いつつ、自分では弁明の言葉も浮かばないブレンはむしろ感謝するほかなかった。

 どうにかこの話題から離れたい心境が募る一方で、後ろから届く声は反対に。

「次見れるのは、いつなんでしょうね?」

 ブレンの心に容赦なくぐさぐさと突き刺さる、クオルの言葉。

 責めていないのは明白なだけに、余計に申し訳なさが募ってしまう。

 一度唾を飲み込み、ぎこちないながらも笑みを作って、ブレンはクオルを振り返った。

「昨日一日、ってこともないと思いますから。今晩は、一緒に見ましょうか」

「えっ、本当ですか?」

 目を丸くしたクオルにブレンは深く頷く。

 昨晩の子供たちは二、三日見られると言っていた。可能性としてはゼロではない。

 見られない可能性も、あるが。

「晴れるといいですね」

「はい!」

 心底嬉しそうに笑ったクオルに、ほっと胸を撫で下ろす。

 これで昨晩の失態を少しは取り戻せたと祈りたいところだが、不意に思い出すのは、イシスの言葉だった。

――引き際は見誤るなよ――

 今はその時ではない。だが、適切な引き際を見つけられるのだろうか。

 傷つけず、傷つかず。もうとっくにそんな時期は過ぎてしまっている気がする。

 手にした地図に視線を落とせば、訪れた場所の印が増えている。

 目的地のない道。その中で引き際を見つけるというのは、至極難しい事だ。

 あるいは、本当に……この手で。

「ブレン?」

 声をかけられ、ハッと我に返る。

 傍らから顔を覗かせた、心配そうなクオルの青い双眸と目が合う。

「どこか、具合でも?」

「あ……いえ。寝不足ですかね」

「……無理しないでくださいね?」

 頷いて笑みを返す。それでもクオルの表情は晴れない。

 心配してくれているのだろう。そう思ってもらえるのは有難い一方で、どこか苦しい。

 無理矢理視線を剥がして、ブレンは前を向いた。

 峠を越えれば、しばらくは何もない。次の街には今日中には着かない距離だ。

 適当な時間帯に休めそうな場所を確保する事を念頭に入れながら、地図を仕舞い込む。

 この緩やかな傾斜の道は、間もなく終わる。

「この先、しばらくは何もないみたいです。退屈かもしれないですけど、我慢してくださいね」

「そうですか? 僕は何でも珍しいので退屈じゃないですけど」

 くすっと笑ったクオルに曖昧に笑って、ブレンは頷いた。

 世界を知らないというのは、幸福でもあるらしい。切ない幸せではあるのだが。

 ざぁ、と風が木々を揺らした。満ちていた深緑の香りが風に乗って、一瞬だけ運ばれていく。

 峠から見下ろした景色は、ただの森ではなかった。

 緑に埋もれて、半壊した城と、家屋が沈黙する景色。

 地図にない、かつて存在した都市の名残がそこには広がっていた。

 ブレンが眉をひそめて、その存在を訝っていると、ぽつりとクオルが呟いた。

「……ライヴ……こ、れ」

 震える声で問いかけたクオルに、ブレンは視線を向ける。

 クオルはどこか怯えた様子で、眼下に広がる景色を見つめていた。

 青い鱗に覆われた体を縮め、琥珀色の瞳を細めたライヴが、絞り出すように答える。

「はい……。恐らく、は」

「知ってるん、ですか?」

 恐る恐る問いかけたブレンに、クオルはゆっくりと視線を向け、悲しげに微笑んだ。

「僕の、故郷だと……思います」

 

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