プロローグ X年X月X日、某所某時刻
「返してっ! 返してよぉぉっ……」
背中に受ける、非難と悲しみの声。それら全てを受け止めることしか、出来ない。
否定も謝罪も、彼らには薄っぺらい言葉でしかないのだから。
闇のような黒衣に、血のような赤いジャケット。その手に持つのは、赤い鎌。それが彼の仕事着だった。
手にしている鎌を空気に溶かすように消し、彼は嘆き悲しむ彼らへ向き直って、一礼する。
「失礼します」
それはせめてもの礼儀として。
より大きくなった慟哭に、痛みを覚えながら彼は空気に滲む様に姿を消した。
魂の狩人であり最後の面会人。
そんな彼らを、『死神』と呼ぶ。
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